洗腸が終わりぐったりするロイを再び肩に担ぎ上げ、主人が待つリビングへと移動する。
肘掛け椅子にロイを固定していると、主人が不意に話しかけてきた。
「ねぇルイス。昨日アクイラで聞いたんだけど、男でも潮を吹くって本当かい?」
「…はい」
「それってオシッコじゃないの?」
「いいえ違います。もちろん精液でもありません」
すっかり口数が減ったロイを固定し終わると、カバンから道具を取り出しなからテーブルに並べていく。
「へぇ〜本当の話だったんだ」
「ちなみに、男はイクと射精しますので、無色透明の潮を吹くのとイクのはまた別のようです」
「えっ、じゃ気持ちいい訳じゃないの?」
「さぁどうでしょう…ただ潮を吹いているからといってイッている訳ではないという事です」
「ドライだと射精しないよね?」
「そうですね。ドライと潮吹きが同時に起こればイッた事になるでしょうけど…」
「そんな器用な事にはならないのかな?」
話してるうちにセッティングが終わり、主人に調教の指示を仰ぐ。
「ねぇ、ロイでも潮吹きされられる?」
主人の言葉にロイの体がビクッと反応する。
「もちろん出来なくはないですが、強烈な刺激に慣れていないようなら、今後ロイの拒否感がさらに強くなってしまうと思うのですが…」
まだ仔犬に近いロイに潮を吹かせるのには抵抗があった。
「そんなにすごい刺激なの?」
主人は余計に興味が出たようで、俺の話に食いつく。
「とりあえず射精させたあと、そのままペニスの先端部分をくるくる回しながら触って刺激し続けるんです。もちろんイッたあとすぐですから、それが
どれだけ辛いかお判りになると思いますが、そのまま触り続けていると腰の奥がズンと重くなってくるそうで、ムズムズと何とも言えない逃げ出したい
ような状態から気がつけば潮を吹いていると、以前潮吹きさせた犬から聞いた事はあります」
「じゃ男なら誰でも出来るんだ」
「はい。ただイッたばかりのペニスを触り続ける事がかなり辛いので、自分でするとつい手を止めてしまって失敗することが多いと言ってました」
「一種の拷問みたいなものか」
「そうですね。なのでロイに関しては、もうしばらく調教に慣れてからの方がよろしいかと…」
「成る程ね。わかったよ、じゃ普通に始めようか」
主人は笑うと、まずロイのアナルを解すように指示した。
二時間ほどの調教で5回射精したロイは、ラスト主人が放ちながら「愛してるよ」と言った言葉を聞いたあと失神してしまった。
まだ後ろだけの刺激でイけないが、ペニスを刺激さえすれば激しく後ろを出し入れされていてもちゃんと達していたし、ペニスだけに弱く刺激を与え
ると足りないというように尻をゆらゆらさせていたので、アナルな入れると気持ちいいと体は覚えているようだった。
タオルでロイの体を拭き道具類を片付けていると、シャワーを浴びていた主人が戻ってきた。
「ルイスご苦労様だったね」
「いえ」
主人はソファーで眠るロイの髪にキスをした。そしてしばらく寝顔を見つめた後ポツリと言った。
「ロイは…ロイの母親からもらったんだ。いや…正確には奪ったかな」
俺をダイニングテーブルの方へ促すと、コーヒーを入れてくれた。
「背中の火傷…見ただろ?」
「はい。かなり酷い痕ですね」
パスルームで見たロイの背中を思い出す。
「あれはロイの母親が、着ていた服に火をつけたんだ」
「えっ!!」
「あいつが15の時だ。しかもその日はロイの誕生日だった」
主人はコーヒーを一口飲むと、その出来事を話始めた。
「火がついてるロイを見つけたのが僕なんだ。母親はその横に座ったまま、ロイに火をつけたライターでタバコを吸ってたよ。火を消して救急車を呼んだ後、ショック状態で痙攣するロイの体を必死で抱きしめている僕に母親は「酷い事をする子だね」って言ったんだ。ロイはもういらないし、この子は
生きてたっていい事なんかないんだから今ここで死んだほうがこの子の為なのに、中途半端な同情で助けたりするんじゃないって」
「なんて親だ」
俺の言葉に主人はにっこり笑った。
「うん、だから言ったんだ。「あんたがいらないなら僕がロイをもらいます」って。その後到着した救急車に乗り込み、病院で処置を受けるロイを待っ
てる間に警察に通報して母親を逮捕させたんだ」
「あなたは間違ってないと思います」
「ありがとう。ロイの火傷は酷くてね。覚悟はしておいてくれってその時の医者には言われたよ。でもロイはなんとか命を取り留めた。何度も皮膚移植
を受けて体は回復に向かっていくのに、半年目を覚まさなかったんだ」
「えっ…」
「火をつけられる前に、母親に何か言われたんじゃないかな…たぶんそれで生きる希望を失い心を閉ざしてしまった。だから僕は「もう大丈夫だか
ら」って毎日耳元で話しかけたんだ。だから目を覚まして欲しいって…それでも半年かかったけどね」
「そうだったんですか…」
「それなのに、ここでこんな事してるなんて矛盾してるだろう」
主人はロイの所まで移動すると、宝物に触れるように優しく髪を撫でた。
オフィスに戻り今日のレポートを書いている時、ふと主人の話を思い出した。
「僕はその時まだ20歳の学生だった。退院したロイを屋敷に連れ帰り世話をしていたが、体が回復するにつれロイは気を使って家を出ると言い出す
し、僕だって家を継ぐ手前、表向きには結婚だってしなくちゃいけない。でもどうしてもロイを手放したくなかったんだ。物を与えて囲ってもロイは僕
に負い目を感じるだけだし、もともと人から好意を受ける事に慣れてないロイはどう受け取ったらいいかわからずに戸惑うのは目に見えていた。だから
ヴィラに連れて来たんだ。無理やり強制され逃げられないという状況の方が、ここが自分の居るべき場所なんだとわかりやすいかと思って…酷い男だ
ろ。結局ロイの母親と同じように、ロイを支配してるんだ」
資産家である主人の家が持つビルやアパートの一室に住んでいたロイ親子。屋敷のすぐ裏にロイが居たアパートがあった事もあり、主人はロイが小さ
い時から知っていたそうだ。
いつも玄関に放り出され、アザだらけのロイにお菓子をあげていたという。
「『ありがとう』って笑顔を向けられるたび、抱きしめたい衝動を抑えるのが大変だったよ」
主人は懐かしそうに笑った。
「ずっと小さい頃から虐待されていたから、ロイは『自分は悪い子で、何の価値もない』って思ってるんだ。それもあって今まで嫌なものを嫌だって言
えなかった。だからさっきの調教前みたいに抵抗するようになったのは進歩なんだよ。自分の感情を出せる事は、ロイにとってすごい事なんだ」
その言葉で、ロイを担いで2階から降りてきた時に主人が嬉しそうにしていた意味がわかった。
「調教が始まると静かになるだろう…あれは黙って暴力を受け入れる事でしか生きていく術がロイにはなかったからなんだ。もっと泣いたり叫んだりし
て感情を出して欲しいんだけど」
ロイの全てを受け止めようとしている主人の姿がそこにはあった。
「きっとロイに自由を与えても生きていけないんだ。赤ん坊の頃から何も教えられてないから、強制される事でしか生きていけない。だから僕はロイに
生きていく為の場所を与えたんだ」
確かに生きていく術を知らないロイにお金と自由を与えても混乱するだけだろう。愛情も知識も社会というものも何も知らないロイは、きっと母親か
ら逃げるという方法がある事すら知らなかったはずだ。だから主人がそこから救い出す必要があったのだ。
「ここも社会とはかけ離れた場所だけど、買い物したりスポーツしたり勉強したり、普通の人がする事を少しずつロイに経験させてやりたいんだ」
ロイに知識がついて僕から離れる事を考えるようになると困るんだけどね。そう言って笑っていた主人からは、ロイへの愛情が溢れていた。
「どうした?顔がニヤケているぞ」
突然アキラに声をかけられ、俺は慌てて顔を引き締めた。
「いや…これ、今日のドムス調教のレポート」
「おぉ! 仕事が早くて助かるよ」
ご機嫌で自分のデスクに戻るアキラを見ながらふと思う。
アキラの苦労を少しでも減らす事が俺に出来る数少ない愛情表現の一つだ。たとえそれが届かないものであったとしても、今の俺に出来る精一杯をし
ていこうと思う。今日の主人の話で心に秘めた思いがさらに強くなった。相手の為を考えて生きていく事が自分の幸せになるのだと…続けていれば、も
しかして奇跡が起こる日が来るかもしれないと…
今俺が生きる場所はアキラが居るここだ。
―― 了 ――
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